【戦争】ゴミみたいなチャリでラオスの山に挑んだら無事に死んだ話。~ルアンパバーンを目指して~
ばつーーーんッッ
・・・・・・ほぉ。
・・・・・・ふぅ。
こりゃあオマエ、これをお前、地獄と言うんだろうなぁ。今にも目から水が出てきそうだ。
とりあえず、落ち着け俺の心、動け俺のカラダ。
前回
後輪のスポークも修理できて身体も心の英気をも養うことができた、癒しの町ヴァンヴィエン。
次に向かうはこれまたラオスを代表する大観光地、おそらくこの国を旅する人のほとんどが訪れるであろう、ルアンパバーン(ルアンプラバンとも言う。Luang Prabang)。
バンビエンからの距離は約230km(*2018年現在は新道がある模様)。一応は2日で行ける距離ではある、一応は。しかしながらこの国の北部は山だらけ、チャリ旅泣かせの国であると前回にも書きました。
ヴィエンチャンからバンビエンまで来るまでにも詳細には記していないですが実はキツかったんです。
なんせ僕のチャリには「ギア」というチャリ旅には絶対当たり前の装備が存在しない。
それはとりあえず買ってみた自転車にそれが付いていなかっただけの話でして、でもそれでマレー半島を走破出来ちゃったものですから、もう別に大丈夫じゃね?ってなりまして、つまりそういうことです。
いやいやいや、盛大に死にましたよ〜!トラブルも上乗せして、整備に関しても無知な僕は一度、死んだのです。
ヴァンヴィエンを出てからもしばらくは、のどかで素朴でそして美しい山々のコントラストが目を引きます。
出発してからはまだ平坦な道で苦労はなく、ローカルの景色を存分に楽しめました。
牛さんと並走することも多々あり。
学生さんの通学でしょう。ご覧の通り、ラオス人って日傘を差すんです。特に女性で、美容目的でしょうか?
ちなみにラオス人の特徴として、とってもシャイでおとなしい。日本人と似てますね。道端で気さくに話掛けて来る、なんて途上国ではよくある話ですが、ここラオスではほとんどありませんでした。
しかし、この国の小さな子供たちは違いましたよ!
「サバイディー!!!」
僕に気付いてワッシャーと集まってきます。
みんな好奇心旺盛、それは世界共通ですね。
でもラオス語で「こんにちは」を意味するサバイディ、これを本当に3歳くらいの子でも僕を見つけると遠くからでもアチラから手を振って言ってくるんです。これまでのタイ、マレーシア、あるいは全世界を通してでも子供から挨拶されるなんてほとんどありませんでしたからね。
こんなとこを自転車で走る外人がよっぽど珍しいんですかね。
子供たちの元気な掛け声に鋭気を蓄えられながら、意気揚々とペダルを回転させて4時間ほど。それまでそこそこのアップダウンはあるものの、そこまでキツイものではありません。
もしかしたらこんな感じのがずっと続くんかな?案外これ楽勝で行けちゃったりするんちゃう?
でもしかしやっぱり、そろそろだそうです。
淡い期待も儚く消え去る文字が目に飛び込みます。こちらは道路上にポツンとあったゲストハウスの看板ですが、「山々の前の最後の宿だよ」と書かれています。Mountain"s"ってのがミソですよね、複数形、つまりは山脈って感じですかね。
英語表記があるということは、バスではなく自分で移動する外人もそこそこいるということでしょうか。あるいはオーナーが外人なのか。
とにもかくにも、「始まるよ!」ってことです。
のどかで素朴でそして美しい山々のコントラストが、もはや恐ろしい山々のコントラストに変わります。
分かりますか?左側の3つ山にうっすらと道が見えますね、あれを登るのです。
想像してください。
20kgの荷物を後ろの荷台だけに載せ、サブバックは自分で背負い、ギアの無い自転車で峠を越える姿を。
とってもバカですね。
いやいやいやそれも間違ってはないけど、そりゃキツイですよ、シャレにならねぇ。
ってそんなの言うまでもないですよね。自分で臨んだことですしね。
俺がお前なんかに負けるワケねぇだろ(ルフィ風)。
こんなチャリで山脈を越えられるはずがない?
そいつはどうかなぁ?やってみなきゃわかんねぇ(悟空風)。
こういう事をブツブツ一人で言いながらさっそく押して歩くんです。セリフに反して全然カッコ良くないですね。
漕げるワケがないんですから。ひったすらに、ひたすらに押して押して地面を蹴り上げて。
ばつーーーんッッ
登れば下りがある。これが峠越えの法則でして、噴き出た汗を爽快な風が乾かしてくれます。
っしゃーー次はどんなもんじゃい〜かかって来いや〜歩くけど〜。
ってな具合で、重力に身を任せて颯爽と下っていた時に穴にはまってスポークがまた折れましてですね。
路面はこんな感じ。注意していれば避けられるレベルではあるのですが、なんせその時にiPodのシャッフル機能さんがPerfumeを選曲するという暴挙に出まして、そりゃ一生懸命に登ったあとの下り坂で気持ち良い風に吹かれながらパフュームなんて流されたらノリノリになっちゃうじゃないですか。
それゆえに前方不注意。結果、穴にディスコっちゃったお前。ワンルームじゃなくてワンホールだったんです。
新生活を始める人への応援歌で絶望へ一歩手前。
前回と同じ写真ですが、このタイヤにある針金、これをスポークと言いまして、一本一本がタイヤ(ホイール)を支えているんです。これが折れますと、その支えてた部分が無くなるのでホイールの丸みのバランスが崩れます。まだ一本折れただけなら走行は可能ですが、折れた部分が左右にブレるようになり、漕ぐのに余計に力がいるようになったり、とにかくストレスになる。
これが2本、3本と場所にもよりますが折れてしまうと、簡単に言えば走行不可になります。ちなみに一本折れるだけで他のスポークに余計に圧がかかってしまっているので、割りと簡単に二本目が逝きます。
ふぅ。とりあえず深呼吸だ。考えろ。
残念なお知らせ其の一:修理の仕方を知らない以前に予備のスポークをも持っていない。
残念なお知らせ其の二:このさき自転車屋さんなんてある気配が微塵もない。
残念なお知らせファイナル:まだ山脈の序盤。
これアカン、ポジティブなお知らせが何一つ無い。シャッフル機能さんテメェ、どうしてくれるんだ。
戻るべきなんです。5時間ほどかけて来た道だけど、戻ったほうが、そりゃ良いんですよ。でも、やっぱ大嫌いなんです、引き返すのって。
・・・なるようになるやろ。このまま行ったろ。
バカなんですかねバカなんでしょう。
限りなく高い確率で訪れるであろう絶望よりも、引き返す面倒くささを重視するという奇跡のチョイスをした僕は、ひたすらにひたすらに、ビクビクしながらもたまに頑張って漕いで、でもやっぱり押して押して歩いて歩いて。
小さな村は大体は尾根伝いにあり、そりゃこんなとこを外人が自転車で移動してるなんて珍しいでしょう。村民全員レベルで僕に注目です。しかしシャイなラオスの人々、みんな扉の隙間からの鑑賞です。
何時間歩いただろう。容赦ない登りが容赦なく続く。それはある程度は分かりきっていたことだけど、これほどとは。
緩やかな傾斜の場所は気合いを入れて立ち漕ぎという技を繰り出すものの、すぐにスタミナが切れる。緩やかといえど、シングルギアはやっぱり歯が立たない。歩いたほうが体力の消費が少ないことを学習し、もはやいわゆるチャリダーではなく徒歩ダーである。
この頃はまだGPS付きの携帯など持っていなかったため、今どの辺りなのか、どれくらい進んだのかも分かり得ない。下から眺めていた今や恐ろしい山々のコントラストは、徐々に僕の目線の高さになってきました。
「つかの間の休息」という名の緩い下り坂でホッと一息、風を切るのが唯一の安らぎ。
ばつーーーーんッッ
・・・安らぎの中で鈍く響いた聞き覚えのある音。下りでスピードは付いていたもののシャッフル機能さんも学習したのか、カーペンターズという絶妙な空気の読み具合の選曲だったんで穴にハマったワケではないのですが、でもつまりそういうことなんでしょう。
これは紛れもなく、運動による発汗ではなく、冷や汗が止まらない。怖くてタイヤを見られない。
呼吸を整えろ。
・・・・ほぉ。
・・・・ふぅ。
夢なら醒めてくれ、絶望さんコンニチワ。
後輪のスポーク、2本目が天に召される。言わんこっちゃない♪
特に衝撃が加わったワケではないはずだが、そりゃそうですよ。これでこのホイールは計4度目のスポーク折れ。もうホイールは完全な円ではなくなっているだろうし、それに何と言っても荷台に全ての荷物を載せており、つまり後輪にほぼすべての圧力、負担が掛かるまさにカスはカスな装備。
後輪だけに降臨した絶望さんですが、まだ究極体の絶望さんではなさそうで、とりあえずはまだ走行は可能なようでした。
でもやはり、2本逝っちゃうとタイヤの左右の振れが一層激しいものとなり、なのでブレーキに当たってしまうんです。つまり自動的にブレーキがかかる奇跡のチャリンコへと変貌を遂げたのです。オートマティックブレーキ搭載ですよ?ハンパねぇ機能ですよ。
ブリジストンさん見てます?これぞ近未来的な自転車ですよね?真似していいですよ。その代わり僕のブログをツイッターで紹介してください、あと帰国後に雇ってくださいよ。
いやいやいや、急勾配の下り坂の時は便利かもしれないが、登りの際は絶望は絶望的にキツイですからね。
あれ?それゴミ機能じゃねぇか。ゴミみたいなチャリにゴミ機能付いちゃってお前、どうなんのコレ?神?
(延々と押して歩いてきた道を眺める。平坦に見えるが緩い登り。)
ここまで来たんだからもう行くしかない。進むしかない。
不必要な自動的なブレーキにより更に進みずらく更に重くなった、今やただの荷物を載せる鉄の塊となった自転車を、押して、押して。
ちなみに登る時だけブレーキカバーをパコっとはずせば、自動ブレーキにならずに済むのですが、この時の僕はそれすらも知らなかったのです。完全なる茶番ですね。
急に現れる露天。これまた全部が全部みーんな同じ物を売っていて、他と差を付けるということが頭に浮かばないのでしょうか。ジャパネットたかた元社長を送り込んだろか?商売のノウハウをもっと・・学べ・・なんて妄想する余裕もなくなってきます。
「サバイディ〜!」
集落では小さな子供が元気に手を振って声を掛けてきます。しかし、もはやそれに応える気力も無くなるくらいの疲労を抱えていました。が、やっぱり子供にだけは夢を与えなきゃ。悲しませるワケにはいかねぇ。と奮い立たせて精一杯の作り笑顔で応えます。
どうですか?僕ってやっぱ子煩悩で良い旦那になること請け合いでしょう?はい女性読者さまからの好感度アップきたこれ〜。
なんて、そんなボケをかます力はもう残されていない。ボケじゃ無いんだけどね実際?
今だけは、美人な奥さんが最重要ではない、山が終わることが一番の本望である、今だけは。
(延々と押して歩いてきた道を放心状態で眺める)
いつまで登るんだろう。大気圏にまで突入するんじゃないの?マジでいい加減にしてほしい、ちったぁ手加減しろオメェ。
あの先を越えれば下りだろう。
次こそは下りなはずだ。
今度こそ、下りだろ?
頼むから、もう勘弁してください。
この無限ループ。儚くも下りへの期待をことごとくブチ破ってくれる鬼畜。
絶望の先の絶望。
地獄の先の地獄。
地獄の先にある絶望を越えて超えて、そのまた先に見たもの、見ちゃったものがコチラ。
丸印のところですね。見にくいですが、建物があるんです。
そうです、つまり僕はあそこまで更に登らなきゃいけないってことです。
お恥ずかしい話、絶望的な光景すぎて目から水が出る一歩手前までいきました。そして、ありったけの罵声を怒鳴り散らし叫び轟かせました。
クソッタレだとか、バカタレだとか、死ねだとか。汚い言葉ですみません。
それらの暴言は、もちろん容赦ない山に対して吐いた言葉。いや違うんです。
<お前まだこんなに声張れんだろうが行けよ!!!行け!!‼︎!>
それは自分に対して浴びせた言葉なんです。
こんな騒乱とした心中でしたが、夕日という美しいものを美しいと思える感覚はまだありました。
そもそもなぜ夕日が美しいのか以前に、人はなぜ「美しい」と感じるのかは分からないけれど、異性に対してのその感情は子孫繁栄のためかもしれない。しかし景色に対してのそれは単なる本能から来るのか、遠い祖先のまた祖先の、太古から来る記憶のカケラなのか。
とりあえず夕日を見ると安心するんだ。
落ち着け、俺の心。動け、俺のカラダ。行くぞ。
あの絶望的な高さにあったのは見晴らしの良い場所に建てられたドライブイン的なところでした。これは翌日に撮ったものですが、そこに到着した頃にはすでに真っ暗でもちろん営業は終わっていたものの、なんとか駐在している人に無理を言ってテントを張らせてもらい、カップラーメンだけ頬張りました。
下から眺めていた山々が、今やその稜線を上から眺めるほどの標高。
疲れすぎて逆に寝たのか眠れなかったのか分からないまま肌寒い朝を迎え、立ち上がると両足の裏に激痛が。そりゃそうですよ、ずっとビーサンのままで延々とチャリを押して歩いてたんですから。これまでにない変な体勢で力が掛かってたんで、水ぶくれですけどね、大きな。
ドライブインのスタッフさんが滑稽で可哀想な僕を見かねてバスを勧めてきましたが、持ち前の意地っ張りを発揮しお断りしました。
色んな意味で真性のバカですね。まず靴履けよ。
それにしてもこのドライブインのトイレ、これ世界でも類を見ないほどの爽快感のある便所ですよね。ここで特大テポドンを投下できたらどんなにスッキリするか。疲れとストレス的な要素で鹿のフン程度しか出ませんでしたよ。
水ぶくれを潰して靴を履き、痛みを麻痺させてからまた、心を無にして歩き出す。
通ってきた景色が似たようなものばかりで、同じ道を逆走してしまったんじゃないかと一瞬冷や汗をかく。
朝から晩まで。10時間ほどの移動中でその内の8時間くらいは押して登って歩きっぱなし。チャリに跨がるのは下り坂と、ある程度の平坦な道だけ。今や「つかの間の休息」だった下り坂が、「つかの間の憂鬱」に変わっていた。
下ってしまったらまた、登らなきゃいけないのだから。
集落があればお腹が減っていなかったとしても無理にでも屋台の飯は食べるようにします。次にいつまともなメシが食えるか予測不可のため。これは標高の高さゆえにパンパンに膨らんだ中国製のお菓子。カビてたけどもはや関係ねぇよってな具合でそのまま食べます、とにかく消費エネルギーに対しての摂取エネルギーが低すぎるから。
距離だけにして見れば、本日中にはルアンパバーンへ辿り着けますが、そう願っていたものの、笑えるくらいに無理。
今夜も野宿が確定したところで偶然にもこういった山水スポット。丸2日分の汗を洗い流して水を補給。現地人によると飲用は可能なようですが、明らかに細かい枯葉なのか土なのかが見て取れるレベルの不純物満載のお水でしたが、そんなこと言ってられない。
犬の遠吠えが不気味にこだまする、暗闇に包まれた道路脇の林で一夜を明かす。野宿は安全さが確認できる場所以外では、とにかく人の目に見つからない場所を確保したい。ラオスでは、というかまさにこの場所の僕がいるヴァンヴィエンとルアンパバーン間の13号線の山中で未だに山賊が出るらしい。
銃撃死傷事件起きちゃってるこれ。
こんな場所で見つかっちゃったら身ぐるみ剥がされるどころか、殺されてそのまま放置で犬に喰い荒らされて発見されないかもしれませんよ。
車の音が聞こえたら直ちに照明を切ります。こんな疲労状態じゃ戦っても勝てる気がしない。それはいいとして、最後に食べたまともなメシは午後2時頃。この時は調理器具などを持っていなかったので、とりあえず中国製のカビた美味しくないお菓子で凌ぎます。カロリー、タンパク質、ビタミン、限りなく栄養が足りていないし腹減った。
また眠れたのかどうかもよく分からない。もう前髪も乳首もおっ立っちゃって。放心は放心状態で、最後の峠と思われる場所で。
「・・・・・・。」
なんと後方からドイツ人カップルです。彼らは前日にヴァンヴィエンを出たばかりとのこと。マジですか?
それはそうとご覧ください、これが本来のチャリ旅のあるべき姿、装備です。前後のタイヤに重さを分散させます。ペットボトルホルダーがとっても便利そう。
僕の茶番劇が満載な相棒を見て開いた口が塞がらない彼ら。いや、ほとんど歩いて来たようなもんなんですけど。
1,000円ちょいのお金で速いバスであればものの4時間で到着してしまう行程を、丸2日と半日かけて辿り着く。ズタボロはズタボロで、両足の裏は腫れ上がり、到着後二日間は歩くことが出来ない状態で寝たきり。宿のスタッフにご飯をも買って来てもらう始末。
それでも尚、涙が出ちゃった時も罵声を吐き散らしている時も、チャリ旅はもうウンザリだ、などと思ったことは一切ありません。終わった今はとびっきりの達成感ゆえの充足感。これが僕の旅には必要不可欠なもの。ベッドに横たわりながらもガッツポーズが止まらず、やりすぎて上腕二頭筋が張ってますよ。
足の痛みに負けず(靴履いてれば防げた)、バスの誘惑にも負けず(本当は乗りたかった)、一発目にスポークが折れても引き返さずに攻める姿勢を崩さず(単なる判断ミス)、俺は勝ったんだよ、自分にね。
(結果、バカがゆえに起きた事故)
・・・それでも、血管がブチ破れるくらい歯を食い縛ってやり遂げたことは事実。そこは褒めてくださいよ。この道のりで僕は一度、死んだと思っていますが、その代わりに生まれ変わったニューブンコーの降臨ですよ。
その新旧の僕の違い。それは、もうちょっと真面目にチャリ旅をしようという決意を持った自分です。ごめんなさい。
次回