<下巻>ガイコツだらけの悪名高い村で受けたもてなし。〜バリ島 風葬の村〜
前回
*人骨の写真多数あり。苦手な方はご注意ください。
もくじ
勝手に先導してくる謎の男。そしてトルニャン到着。
湖まで下りてバトゥール山を今度は下から眺める。ゴミがたくさん浮いてる様子がアジアって感じですね。
現地の女性たちがエッサエッサと働いていました、小さな少女も頑張ります。みんなイイ表情。
この湖の水が島を潤わせ、田んぼや農作物を育て上げます。バリの水がめであり母であるこのバトゥール湖は、バトゥール山とセットでバリ州の文化的景観として世界遺産に含まれています。
湖沿いを走れば村はすぐそこ。
チマチマと写真を撮りながらゆっくりと進んでいたところですね、道沿いに一人の男が座り込んでいたんです。誰かを待っているかのような、待ち伏せしているかのような。
しれーっと通り過ぎ、ることは出来ませんでした、案の定。彼は僕の前に立ちふさがります。
今度は何ですか?
「トルニャンへ行くんだろ?付いて来いよ!」
そう言って彼は勝手に僕を先導し始めます。
いや別に誘導されなくても自分で行けるし、ゆっくり写真撮りたいし、怪しいし、シカトだし、誰おまえ。
彼はゆっくりな僕のペースに完璧に合わせてきます。
村に近づくにつれ起伏が激しくなり、路面状態も悪くなってきます。
これってどういうシチュエーション?なかなかシュールですよね。
村まではあと一息と思われるところで、一つ悪路で急勾配な坂が現れたんですよ。
その坂をですね、このオンボロバイクがですね、
登れないコメディ。
低速で走っていたというのも大きいんですけど、なんて貧弱な排気量でしょう。
真っ黒な排気ガスだけ無駄に吹き出してちっとも前へ進まないし、環境破壊もいいとこですよ。
なんとか押して歩いて登ったところで目的地が見えました、風葬の村トルニャン。
気味の悪いイメージがまとわり付いているため、村民からしたら明るいポップな入り口かもしれないが気味は増す一方なのである。なんかこの二体とも動き出しそうで怖いんですけど。
トルニャン着いたニャン〜とカツを入れ、いざ入村。
誰もいないニャン。
人っ子ひとり見受けられず、湖の小さな波の音だけが村を包み込む静寂は気味の悪さを助長する。
先ほどのよく分からない男に促され、バイクを定位置に置く。
バイクのエンジンを切ると、まるでそれが合図かのように細い路地から現れた二人の女性。
ゆっく〜りと、こちらへ近づいてくる。
どちらもおばあさんだ。双子か?同じ背丈で似たようなボロボロの服をまとっている。そのゆっくりと移動してゆく姿はまるでオバケのよう、ファミコン時代のアクションゲームに出てきそうな地味に強い敵キャラのよう。
間違いなく、この二人の向かう先は僕だ。
あ”っ
あ”っ
あ”っ
顔面シワだらけの老婆二人が目を見開き大きな口を開け意味不明な枯れた声を発し手のひらを突き出して金をせがんできた。
こりゃぶったまげたぞ!
マジで息くさい!
まるでゾンビだ、映画の世界だこれ。一人は僕の腕まで引っ張ってきた。
とりあえずNO!NO!と首を振り掴まれた手を振りほどくと、口をモゴモゴさせながらジーーっと見つめてくる。二人して喋れないのか?とりあえず歯は磨いとけよな。
いやいや実家に帰りたくなるくらいビックリしましたよ。
悪評高い村とは聞いていたが、その通りの先制攻撃、いや、先制“口撃”ってとこですか?リステリン注ぎ込みたい。
・・・この一部始終を黙って見ていたあの男。
助けろお前。
ちなみに最初の変換で「先生口撃」って出たんですけど、コレなんかいやらしくないですか?僕溜まってんですかね?
風葬現場へ潜入。
「お墓を見たいんだろ?200,000ルピーで連れてくよ。」
あの男が商売をし始めます。そもそもアンタ村の人間だったのか。
第一村人はっけん!みたいにやりたかったのに台無しかよ。あそこで観光客を待ってたのか。
で?くっそ高い!
20万ルピア(約2千円)なんて二泊分ですよ、大体の観光スポットの入場料は100円(1万ルピア)とかですからね。
その風葬されているお墓はここから少し離れた島にあり、ボートでしか行くことができないのだ。
にしてもバカ高い。これは完全にボッタクリだ、がしかし、再三たる値下げ交渉も退け一切引かない男。
奥の手「じゃあ行かない、帰るわバイバイ!」も通用せず。
・・・この奥の手を使ってダメだったときの引き返す気まずさってね。
そもそも相場を知らないのだが、ここまで値下げを拒むくらいだから正当な料金なのだろう、てことで折れた。
村民が一人追加投入され、こんな手漕ぎボートでグラグラと不安定ながら進む。
一応ライフジャケットを装備させられた。準備がいいな。
シチュエーションが謎ですが、こちらをじーーっと見つめたまま動かないオジサンがいました。あとで彼も加わって3人で僕の金品を奪ったのち湖に突き落とす、なんて想像もしてしまうのですが。
20分ほど揺られてようやく本日のハイライトへ到着。
え、メッチャ歓迎されてる。
この「WELCOME」の看板により不気味さが一気に軽減。
完全に自分たちの祖先でお金を稼ごうとしている模様。
でも、ようこそ我がお墓へ!って感じのテンションの看板の下にあるものが
シュール過ぎる。ガチのやつ。
鬱蒼としたジャングルの中にひっそりとお墓はある。まずはこれでもかってくらいの人骨がお出迎え。
白いものほど最近の人、苔まで生えた黒いものほど昔の人。
タバコのお供えをするのもこの村独自の風習なのでしょうか。
僕みたいな好奇心旺盛な人間の見せ物にされ、写真を撮られまくる先祖たちは、あの世で何を思うのでしょうか。
そもそもこの村で、いやインドネシアでは「あの世」という死生観は存在するのでしょうか。
このお墓は公開はされてはいるが、ここは自分の意志で訪れることを控えるべきなのかもと、ふと思う。罰当たりではないか。そんなことを考えるのは自分が「日本人」だからだろうか。
隅っこに風葬の現場はありました。ゴミが散乱していて、いいんですかこれで?
遺影でしょうか?ゴミに混じってお金も落ちてます。拾ってもいいですか?お供え物なのでしょうが、この位置だとただの落し物にしか見えない。
動物や鳥などから守るための囲いだそうで、柵の中で一人ずつ白骨化するまで風葬されます。
回りにはお皿とか生活用品などが散乱。死者が生前に使っていたものなのでしょうか、あるいはただのゴミ?お供え物だと思われる食べ物も皿には盛り付けられていましたが、だいぶ前の物のようで酷く腐敗してハエがたかっています。これが罰当たりだという考え方は無いのでしょうか。
しっかりと人が入っています。顔以外は布などに包まれている。
やっぱりお供え物、には見えないゴミとしか思えない物も中にはたくさん入れられている。
風葬されるのは皆、既婚者らしいのです。未婚のまま死んだ者は別の場所で無造作に捨てられるか埋められるとのこと。
雑然としていて、お墓と知らずに来てたらゴミ捨て場にしか見えない。
このお墓に入ったとき、いわゆる死臭っぽいニオイはしませんでした。食べ物の腐敗臭はありますが。
なんとも、このバニヤンツリーという立派な木が消臭の役目を果たしているらしいのです。
「風葬」
調べてみると、かつては日本でも、沖縄や奄美をはじめとしてこの風習があったようです。他には風葬のみならず、世界にはいろいろな葬法があるんですね。
例えば、「鳥葬」
もう何となく予想はできると思いますが、鳥に食わせる葬法。
チベットが主で、鳥とはハゲワシのこと。宗教上は、魂の抜け出た遺体を天へと送り届けるための方法なのだそうです。中国では天葬、英語では空葬(Sky burial)と呼びます。
これ、しっかり東チベットで見てきましたよ。
他にもインドなど、ガンジス河に死体を流す水葬であったり、アフリカでは獣葬なんてのもあるそうです。
世界ってのは本当に広いものですね。
お墓は所要時間30分で十分、カヌーの運賃は高額だったけれど、いいものを見れました。
ナマの人骨、実際に風葬されている人・・・いや、、、何が一番心に残ったかと聞かれますと、村に戻る直前に見た光景かもしれない。かもしれない、ではなく、それが一番衝撃的でした。
僕と入れ替わるように、ガイドを雇ったインドネシア人の観光客が来たんです。
その時に見た彼らの一人の様子がコチラ。
ガイコツ持っちゃうよね〜〜!
うへへ、リアル人骨だぜ、撮ってくれ♪って感じですか?
遺骨を重んずる我々日本人からしたら驚愕ですね。これも死生観の違い、というのでしょうか。もっと掃除すべきだと思っちゃうし。
お墓というと、少し重々しい空気で、更に風葬という不気味な空気が流れているのかと思いきや、ここでは不思議とそんな感じは受けませんでしたね。観光客からは大きな笑い声が聞こえたりもする。
世界は広い。
村へ帰ろうと船着き場へ戻ったら、ここへ来るときに見たあのオッチャンが手を伸ばしてしつこく金くれ、って言ってきましたよ。墓場を見に来る観光客を待ってたシチュエーションだったんですね。
湖から見るとよく分かりますが、土砂崩れで一発アウトな場所に村があります。
初め村へ来たときとは打って変わって、村人を多く見られました。子供たちが水遊びしてますね。
墓場から戻り、もう少しバイクを邪魔にならないポジションに置こうとエンジンをかけると、またあの老婆たちが待ってましたと言わんばかりにゆっくり現れ奇声を上げて金をせがんで来ます。
エンジンの音で反応するように仕掛けられたオートマティックなアンドロイドのようだ。
さてはオートマティックばばあだな?そうだろ?歯を磨け歯をォ!
もうカネかねウンザリですよ。それでもめげずに振り切って村を歩いてみます。
悪名高い村で受けたもてなし。
恐るおそる写真撮ってもいい?のジェスチャーを繰り出すと、みんなニコニコしながらどうぞどうぞと。
あれ、なんか拍子抜け。
子供が元気に細い路地を走り回る様子は、まるで日本の素朴な昭和初期の映像のよう。
小さな商店がいくつかあり、村民はカメラを向けても嫌がったりしない。
お金は無いけど、暇だけど、不幸じゃない。
そんな印象を受ける暖かな家族の、お気に入りの一枚。
写真撮っててもやっぱり迷惑な顔一つせず、にこやかに「ジャパン?」なんて聞いてくる。
失礼ながらお金が無い、ってのはもちろん勝手な推測であって、実は金持ちかも分かりません。
鼻毛抜いてる父ちゃんに派手なタトゥーがあるから、お金はあるのかも知れない?
でもしかし、この村の人たちの収入源は一体何でしょう。この商店だけではやっていけないはず。どこの村でも言えることですが。観光客が落とす高いお墓の入場料とボート代が村人みんなに分配されるのでしょうか。
これからは文化としてよりも、お金のため、パフォーマンスとしての風葬にならないことを、なんとなく祈るばかりです。既にその傾向は見られますが。。
この家族から、インドネシアでよく見る小さなカップに入ったミネラルウォーターを頂いちゃいました、その気持ちが嬉しいです。
湖はもちろん生活用水としても使われます。
まだ小学生くらいの子供も働いていますね。
雄大な景色を前に皆で仲良くお洗濯。微笑ましいです、まだ5歳くらいの子も頑張ってます。撮られていることに気付くときゃっきゃと照れ笑い。
事前情報では閉鎖的な村でタチの悪い人がいるだので構えてましたが、(実際に2人いたけど)基本は穏やかに見えます。
そんなこんなで目的であった風葬、そして美しいライステラスと壮大なキンタマーニ高原を見ることができ、色んなイベントがあったりで大満足な一日だったなぁ〜。
なんて一日を振り返りながらバイクに戻ると、一人の男性が声をかけてきました。
・・・何ですか?
どうやら俺の家に来いとおっしゃっている。
・・・うむ。怪しい。でも面白そうだから付いて行っちゃう僕はやっぱり好奇心には勝てない人間だ。彼は日本が好きらしい。悪い人な感じはしない。ただただ日本人である僕と喋りたいだけのようです。
「家族で日本へ旅行するのが夢なんだ。」と遠くを見つめるように言います。その目からは、ハードルの高い夢だけどね。なんていう少し苦笑をにじませる内心を感じ取れた。
旅行することが夢。彼らにとってはやっぱりただの旅行でさえ難しいことなのでしょう。旅行どころか何年も世界をフラフラできる僕なんてやっぱり恵まれてるよな、なんて少し息が詰まる思いでした。
家に外人がいる物珍しさからか、2人きりで喋っていたのがいつの間にか人が集まって来ました。
男性だけが少し英語を話すことができ、彼の通訳のおかげで皆と会話ができました。
ほっこり賑やかな素敵な時間です。
彼らからはフルーツから始まり、コーヒー、お菓子にチマキのようなもの。
しまいにはお母さん手作りの完全にレストランレベルの料理まで出され、盛大にもてなしを受けてしまいました。美味すぎてご飯おかわりしましたよ(2回)。
これだけのフルコースを出された際に僕の口から出た言葉は
Sorry, I don’t have money.
でした。失礼ですね。
もちろん彼はただただ純粋な善意で持て成してくれてたワケです。
でもあれだけお金に絡んだ事例があったものだから、高額な請求をされるんじゃと怖かったんですよ。
こんなキラキラした目を持った子がいる前で、お金をふんだくるなんてありませんね。
タチの悪い村人と訪問客との金銭トラブルが絶えない.。
閉鎖的な村で、バリ現地人でさえ近付きたくない村。
ガイドを雇って行った方が無難。
・・・等々。でも見てくださいこの表情。
シャワーの最中だったね、ごめんね。
村に来る前は事前情報が若干の先入観へと変化していました。
悪名高い村、あたかもその村の人間はみんな悪い奴らだと自分の中で勝手にイメージを作り上げていました。
でも実際に足を踏み入れて感じた、純粋で優しい嬉しいギャップ。情報には無い村人の本当の姿。
自分の目で見て、実際に感じる。これホント大事。大好きな村の一つになりましたよ。
心がホカホカした僕はバイクにまたがりエンジンをかける。
その音で相変わらずオートマなおばあさんがチラっと現れ、さすがにこちらへは、もう来な・・
来ぅぅるぅ〜〜〜〜!逃げろぃ!
お金をせびる行為。それは確かに良くは無いこと。
でもそれは、この世がいかに不平等であるか、ということでもあるわけです。
日本で日本人として生を受けた奇跡。それに対し自分は何が出来るのか。
そんなことを思い感じ考えた、ウブドへの帰り道。
トルニャン村の人たち、ありがとうニャン。
*ガイドブックや多数のサイトでは、「バリ・アガ=先住民族」とされているが、正確には先住民族というくくりではないとの見方もあるようです。一言で解説するには難しく、とても長くなってしまうのでこのブログでも「先住民族」として紹介しました。
(2014年10月24日の記録)
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