バイクタクシーが爆発する時。〜バリ島クタLIFE -上-〜
前回
灼熱のクタ、到着。
今年最大級の台風。そいつがまさに東京の真上にいる状態にも関わらず、それをものともしない豪快な離陸っぷり。
からの、電話で聞いた通り、台風よりも高く飛ぶという神様みたいな妙技を目の当たりにし、この横殴りの雨風に劣らぬほどの賞賛の拍手の嵐を心の中で響かせたのでありました。
敏腕で巧みで秀逸な判断力とアグレッシブなハンドルさばきを展開したエアアジアのパイロットさんには感謝しかないですよ。こちとら離陸から速攻で地上へ真っ逆さまなんじゃないかとビクビクしてて、チェックインから搭乗までの間に不安からか4回トイレ行きましたからね。
そんなこんなで世界旅、オーストラリアからの2カ国目となるインドネシアはバリ島へと降り立ったのでした。
アジアの南端に当たるこの場所は世界旅のスタート地点にふさわしい。
これから大陸を目指してガンガン北上して行きます。
機内から出た瞬間のあのムぁ〜〜っと熱と湿気をたっぷり含んだ空気が肌にまとわりつき、ここが東南アジアだよべ〜イビィ〜、と気持ち悪く歓迎されているかのようでございました。暑い、これが東南アジアか。
出口へ向かうと、ツアー会社がわんさか。
単独の僕はウロウロしながら外へ出ようとするなり、真っ黒な怖い顔したオッサン達が「タクシー?タクシー?」と詰め寄ってくる。フワフワ浮かぶひとつの餌に一斉に群がる鯉のごとく。
既に良さげなホテルをチェック済みで場所もここから5キロちょい。
一応そこらへんまでHow much?と聞くと、
「150,000ルピア」だと。
もうゼロが多すぎてワケ分からんのですが、大体0を二つ取り除けばいいとことなので、つまり1,500円とかですか?
そーですか
そーですか
そーですね、
歩きます。
いや、そういえばここは東南アジアだ、そうかコイツは交渉制のタクシーというものなのだなと悟り、少し粘ってみたがそれでも千円以下にはならないので、やっぱり歩きましょ。
「ここからホテルがあるタウンまではとっても遠いんだぞ?」
いいかい教えてやろうオッチャン、あんた鼻毛出てっぞ!2本。
それは良いとして、5kmなんてのはな、オラからしたら目の前なんだぜ、アバヨ!
なかなかアーティステックで立派なデンパサール空港。
そばにはバリ特有の門、割れ門がそびえ立つ。楽しいぜフー!
シャレになんねぇ。
なんか見たことないとこから汗出てっぞ、爪から汗が出るなんてことある?
距離的には大したことないけどこの暑さを加味し忘れてた。想定外の疲労感。
ホテルのレセプションに言われましたよ、「荷物持ったまま海へ泳ぎに行ったの?」って。やかましいお前。汗ザッバーの汗でアイフォン水没しちゃいそう。
非常に疲れました、でも面白かったです。
「タクシー!?バイク!?バイク!!?」
10mおきくらいに声を掛けられ、タクシーのクラクションも半端ない。
狭い通りに入れば今度は暇そうなマッサージのお姉ちゃん達が「マッサージ?マッサージ!?」と呼び込みます。
いやいやアンタ、明らかに気持ち良くなりたい空気と出で立ちじゃないでしょ、汗だくでデカイバックパック転がして小さいリュック背負ってハァハァ言いながら「マッサージお願いします!」って何プレイですか?
いやしかしまさに自分は今、東南アジアにいるのだなぁ〜なんて、したたる汗をぬぐいながら嬉しい気持ちで歩いていたのも事実です。
僕がまず滞在するのはクタ(Kuta)と言ってここバリ島最大の商業地、ビーチリゾートとして完全に観光地化した町。
ここには6日間暮らしましたよ。何をするわけでもなく、毎日カメラ片手に散歩。
こっちのバイクはもうチャリ感覚らしく、どんなところもお構いなしで突っ込んできます。
一方通行も関係無いらしく、そのせいで車が通れず渋滞に。
屋台丸ごと装備したバイクも走ります。BAKSOとは肉団子のスープのことです。
土産物屋は腐るほどあり、み〜んな同じようなものを売っていてこれでよく生活成り立ちますよね。副業?
店員と目が合うと「ヨッテク?」とか「コチラデスヨ」とか呼んできます。いやお前の店目指してねぇけどね。日本語が飛び交ってきていちいち面白い。
世界的にも有名なサーフィンのスポットであるクタビーチは何をせずとも歩くだけでも楽しいです。物売りがたくさんでマッサージしてたりオッチャンが寝てたり。
気さくなサーファーの兄ちゃんがやっぱり日本語で話しかけてきたり、なんともアジアらしいビーチである。
ここからは毎日、素敵な夕陽を楽しむこともできます。まさに一日の締めに最適な場所。
しかしホントに日本語が達者な現地人が多く、妻が日本人だなんて嘘かホントか3人くらい会いましたよ。
バイクタクシーが爆発する時。
滞在4日目。周辺の散策も飽きてきたところで、ちょっと遠くの方まで足を伸ばしてみようかとレンタルバイクを借りに行こうとした時です。
ホテルを出ると、いつものごとく暇そうな、もう顔見知りのバイクタクシーのオッサンが声を掛けてきます。
「ドコ イクン?」
彼も日本語が達者です。しかもなぜかチョイチョイなまってる。
毎日僕が泊まっているホテルの前に座り込んで呼びかけてきます。何か誘われるたびに断ってきたんです。
バイク借りて南のほうへ行ってみるよーじゃあねー
「・・・ッ!!イクヨ!オレ、ツレテケルヨ!」
ここぞとばかりに詰め寄るオッサン。
自分で行くからいいよーじゃあね〜〜
「サンマンルピー デ イッパイ ツレテケルヨ!」
顔が切実すぎて吹いちゃった。
てかさっきから語尾の「ヨ」だけジャムおじさんの声ソックリで腹筋痛いわお前。
<・・・ん?てか3万ルピア?てことは300円?ホンマかいな?バイク借りるだけで5万ルピア(500円)なんだけど?>
ホントに3万ルピーなの?
「ホント!ホント!イクヨ!」
興奮しすぎだろこのオヤジ、ヨだけ声高くするのやめれ。
ということでレンタル代よりも安い3万ルピアという恐らく超破格の料金で、ここから南西に約20kmほどにあるウルワツ寺院という場所まで彼をチャーターすることにしたんです。
破格だし、カオスな路上をまだアジア経験の無い人間が運転するのもどうかと思いましたしね。
久々のお客ゲットで興奮気味のオッサンと自己紹介してサクッと後ろにまたがり出発です。
目的地のウルワツへ行く途中の見どころも見せてくれます。まぁ王道ルートなのでしょう。
少し南へ走るだけでクタビーチとはエライ違いの海の色。
僕が歩いて見て回っている間は彼は、ずーっと駐車場にある待機スペースで待っています。それがチャーターというもの。
しかしなんか、申し訳なく思ってしまうんですよね。というか、待たれてるという感じが苦手でして、もう戻った方がいいかなぁとか気にしてしまうんですよ。
駐車場に戻ってキョロキョロしてると、「ブンコォ〜〜〜」と枯れた声で呼んでくれる彼。
ねぇねぇ、毎回ひまでしょ?大丈夫?と何度か気遣ってみますが、もうそれは慣れているようで問題無いようです。
それにしても一度自己紹介しただけで彼はちゃんと名前で呼んでくれている。
それに対しやっぱり昔から僕は人の名前を覚えることが苦手で、これまでに3回も、ごめん名前何だっけ?とか聞く失礼さ加減。
昼前から一緒にいて、しかしもう夕方という時間でやっと彼の名前をメモることにした僕はクソ野郎なのだろうかクソ野郎なんだろう。
そうだ、彼の名前はマデだ。
どうしてたったの2文字が覚えられないのかなぁ。マディーンだったら一発で覚えられるんだけどなぁ。
目的地のウルワツ寺院へ到着。
そーですか。
寺院てのはあの先端にある気圧変動対応の耳栓みたいなやつですか?
断崖絶壁はオーストラリアの方が遥かに壮大なためこれを見ても感動はほぼありません。
ここウルワツはバリ三大夕陽スポットの一つらしい。あの寺の左側に太陽が沈むようなのですが、写真撮るにはちょっと味気ない構図になる気がしますね。
日の入りまでまだ時間あるし暑いし、良い写真も撮れる気がしないので早々に撤退します。
マデにもやっぱりそんなに待たせちゃ悪いですしね、こんな破格な料金だし。
ほら!マデが暇すぎて小枝で地面カリカリしてる!
常に眉間にシワを寄せ、切実感たっぷりのまま一切表情を崩さないマデ。
ポーカーフェイスの神様なのではと僕は疑っている。
帰ろ、ね、マデ。もう解放してあげられるからね。
そんなこんなで彼とのプチドライブはおしま・・・いにはならなかったのです。
帰る途中にガソリンスタンドへ寄った際に、目が覚めたんです。完全に。
ガソリン代、2万5,000ルピア(約250円)という数字を見て。
・・・薄々というか、チャーター代3万ルピアて安すぎじゃね?とちょっと前から少し不安になっていたんですけど、それを聞けずに今まで来た。まぁよっぽど暇そうだったし彼からしたらほんの少しの収入でも良かったんじゃないかな。
なんていうとんでもない、やはりアジア初心者の青二才の考えだったのです。
ガソリンが250円なのに300円で一日貸し切ってくれるアホなんているわけねェ。
なんだ300円て、ほぼタダじゃねぇか。
でもしかし、マデは120%、「3万ルピア(300円)」と言った。何度も念を押して聞いたのです。
とりあえず安全にホテルまで送ってもらうまでは問いたださず。
しかし軽いジャブは打ってみました。
マデ、ガソリン2万5千ルピアって、高いね?
「ソンナニタカクナイヨ?ニセンゴヒャクルピー ダヨ。」
・・・。
なるほど、さっそく変な角度からカウンター喰らった気分だ。
コイツ、円とルピアのケタを一つ間違えてやがる。彼が僕から徴収したい金額は3万ルピアではなく、30万ルピア(約3,000円)であろう。
さぁどうしたもんかな〜。
無事にホテルに到着し、ドキドキの試合-支払い-の時だ。
ありがとうマデ、3万ルピアだよね?
「ウン。」
ハイ、3万ルピア(300円)。
「・・・エ?」丸い目が更に丸くなる。
ありがとね!
「コレ、チガウヨ?」
ん?いや、これ3万ルピアだよ?
(マデ計算なう)
「ア、サンジューマンルピー ネ」
ここへ来てサラリと修正してきたオヤジ。手がプルプルと震え出したのを見逃さない。(現在の推定マグニチュードは3)
丸い目は泳いでいるというよりは、溺れそうなほど水分たっぷりだ。気のせいか?初めて彼の表情が少し崩れた。
てかマジでヨだけ声が裏返っちゃう感じやめろ、腹筋が更に割れる。
え?マデ、3万って言ってたよね?30万ルピアだったら間違いなく一人で行ってるけど?
「・・・ッ・・・・。」
(マデの口角も震えだす。マグニチュード8。今にもヤバそう。)
「コレ・・・・・チガウ・・ヨ」
(マグニチュード13)
「ドォォオオオスンノ オレェェエエエッ!!」
(噴火。)
知らんがな。
マデの顔面が完全に崩壊し僕は失礼ながら口を押さえつつも笑いが炸裂、押さえた手の隙間から笑いがこぼれる。
だって切実感満載な表情から悲壮感全開の表情にシフトしポーカーフェイスのポの字もないのだから。
「モォォォォオオオオオ〜〜〜・・・・ッッ」
取り乱した彼は両手でチリチリの髪の毛をグシャグシャしながらうなだれ首を振りまくる。漫画かッ。やっちまった感全開で自分を激しく責める推定50のオヤジ。
いや、ここは僕にも非があると思うんです。しっかりとこれでいいのかと実際にお金を見せて確認すべきでした。
冷静に考えて300円とか有り得ない。彼も騙そうとしたのではなく純粋に間違えてただけだろうし。
寄り道もしてくれたし、ここは半々の15万ルピア(約1,500円)で、と提案。
彼も自分がミスったことを十分に自覚しており、ネチネチ言ってはきたが丸く収まりました。
レンタルするよりも高額になりましたが、色々勉強になったし満足できる一日でありましたとさ。
みなさんもチャーターする際には、しっかりと実際にお金を見せて確認を取りましょう。彼はミスを認めた良いやつでしたが、悪いやつは更に上乗せしてくることもありますからね。
次回